そして召し上がれ。本をしゃぶりつくすように。

新書だけが本ではない 古今東西誰かに見つかるのを待っている本がある

【文例】夕立

 夕立 予感 冒頭

夕立が近づいてくる気配を私は好んだ。 黒雲が大きな獣のように夏空を走って、乾いた街路が沈んでゆくように翳る と、果実のような甘い匂いが当たりを満たす。最初の一滴はまだ落ちない。 そんな時に街中を歩いていると、わくわくと身体が震えるような気がした。

森見登美彦 きつねのはなし

 

冒頭のこの表現を受け、文中雨の予感をさせる表現が随所に出てくるが降らず。

そして最後のクライマックスと共に夕立が降る

照明灯が点いたように、あたりが昼のように明るい光に照らし出された。大木を裂くような凄まじい音が響いた。底が抜けたように大粒の雨が降り出して、アスファルトが羽毛立ったようになり、地面に倒れている二人の男が、 綿にくるまれているように見えた。 雨がぽたぽたと顎から滴り、まるで自分が泣いているようであった。

    雷鳴に胸が騒ぐ。

森見登美彦 きつねのはなし